ICE-TD

●はじめに

 ドイツ鉄道株式会社(DB AG)は、1994年夏DWA、DUEWAG、FIATそしてSiemensの4社からなるコンソーシアムICNTに長距離用振子式電車ICE-T、411形、415形を発注した。この列車は路線規格を改良されていない長距離路線に投入され、その振子技術により魅力的な運行時間と乗客にとって洗練された快適さ、そしてICE水準の高品質なインテリア空間を提供するに至っている。
 この契約が締結されると、DB AGは長距離路線ネットワークで非電化、または部分電化路線での高品質な長距離旅客列車の運行提供が必要となった。これの最初の対象が東西ドイツを結ぶSachsen路線のNuernberg - Hof - Chemnitz - Dresdenと南ドイツアルペン地方Allgaeu路線のMuenchen - Lindau、更にその延長路線であるスイスZuerich迄の区間である。これは1994年11月にに出された一通の情報質問から始まり、1995年2月、4輛編成電気式ディーゼル振子列車に発注となった。
 DB AGに引き渡された最初の列車はAmmendorfとUerdingenから1999年2月にWildenrathの試験センターで試運転を開始し、2001年に入ってからはHofを基点に乗務員の習熟訓練が行なわれている。4月からは一部のIRに投入され、いよいよ2001年6月の夏ダイヤ改正からNuernberg - Dresden、Muenchen - Lindau間で営業運転開始となる。


●製造に至る経緯

 振子式電車であるICEファミリーの411形 、415形のNeumeister Design等によるデザイン提案が採用となり、ICE3もそれと同様のデザインと設備で製造されたため、この第3の新しい長距離列車もこの製品哲学を継承した。1995年夏に加えられたこの新しい列車の仕様書には、乗客設備部分について同様のデザインと同じ設備エレメントを使用する旨が注記され、電気式ディーゼル駆動による屋根上の排気ダクトや側面の下方にあるエアコン設備の吸気口の配置等が変更された。
  DB AG は1996年7月初旬、ついにSiemens、DUEWAG、そしてDWAにSiemensを長とするコンソーシアムにICE-VTとして発注が行われた。発注されたのは運転操業開始と連邦鉄道局の認可を得た20編成の4輛タイプ、電気機械式Siemens-振子装置付き電気式ディーゼル高速列車(今日のICE-TD、VT605形式)である。
 変更点は、例えば今迄の小さなBistroキッチン部分でフルタイプの食堂車用に拡大、又はスイスセットと呼ばれているスイス規格の列車保安システム、Signum-IntegraとZUB121、スイス規格の列車無線、特別なSBB後方信号を取り入れているものが追加発注されている。


●技術仕様

 DB AGのマーケティングと技術の事前設定で作成された技術設定書には、4輛編成の強制振子装置付き電気式ディーゼル列車で、最高時速200Km/h、195座席、そして最大車軸荷重14.5tとなっている。ここではまた、当初から電車方式のICE-Tと車体構造とデザインコンセプトを変更しないことが掲げられている。このため、乗客に車内の可能な限り大きな部分を提供する様全ての駆動部分と補助機械を床下に配置した。それにより、駆動性能はこの時点で市場で得られる最も高性能な排気エミッションEuro--規格適合の床下ディーゼルエンジンの4 x 560Kwとなっている。 
 制御系統はVT605形3編成12輛の協調運転、又は電車方式ICE-Tとの併結協調運転が可能な仕様となっている。
 Siemens-振子技術の採用は台車の中に電気駆動モーターを配置することにより、貴重な車体床下空間を他の機器類に譲ることが可能となり、床下部分に全ての駆動機関及び補助機関を釣り下げられることが挙げられる。
 この良好な駆動機器の効率は、消耗の少ない効率の良い動的ブレーキ、多重かつ常時性能は単行時と同様に併結時にも非常及び補助運転がエレガントに実現可能。また運転停止時には1000Vの電力供給が行われる。そして位置決めの制約なしで各コンポーネントの配置が可能となった。
 駆動コンセプトは駆動部と補助駆動供給機器において運転開始当初より低燃費と高性能であったVT610形が模範となった。
 車体部分の設計はAmmendorfにある、今日のBombardier TransportationとなっているDWA、及びUerdingenにある今日のSiemens DUEWAG Schienenfahrzeuge GmbHとなっているDUEWAGが担当した。そして、電気系統部の開発はこのプロジェクトの責任部署であるErlangenのSiemens Verkehrstechnikが行った。
 先頭車両の製造はAmmendorfのBombardier Transportationで躯体製作はイタリアSaviglianoにあるFIAT Ferroviariaが下請けた。中間車両については全てUerdingenにあるDUEWAGによって製造された。
 このプロジェクトの総括部はErlangenの3社のコンソーシアムがプロジェクトオフィスを構え、顧客(DB AG)と3社間との間で調整をはかり、技術的な調整や縦割り問題(日程調整、日程監視、品質保持、設計変更調整、記録作成、教育、重量管理、そして保証処理等)と購買調整などの解決にあたった。


●車体部分について

 VT605の車体はリブなしのアルミニウム合金である。横桁のない台枠は溶接接合され、力学上強化されたアルミニウム構造で出来ている。力強い外側枠部は台枠とその部分に重たい床下機器を溶接によって接合、強化されている。
 先頭車両の前頭部分にある衝撃抑止部はバッファーの高さとスカート下部におさめられている。先頭の顔の部分はガラス繊維で強化されたプラスチック(FRP)製で車体下部に接着されている。先頭車両の連結器はブレーキ抵抗とそれに付帯する屋根上部のカバーの為の支えとして溶接されている。
 台枠部分は台車間にカバーで覆われている。

By Akira Inoue (aav18170@par.odn.ne.jp)
●インテリア
 
 著名なデザイナーのアレキサンダー・ノイマイスターが中心となって行ったインテリアデザインはICE3や電車方式のICE-Tと同様の造形、モジュールを使用している。

○605.0(2等先頭車)
 先頭部ラウンジには8座席及び55座席の開放室で全て禁煙座席になっている。先頭車両出入口ドアは全ての第3世代ICEと共通でラウンジ部と開放室の間に配置されている。ドア側の開放室の一部には、季節によって約4.8mの自転車を10台置けるための留め具を取り付けた自転車専用スペースに改造することが出来る。

○605.1(2等中間車)
 車両全体が禁煙の45座席ある開放室と遊具付きのファミリールーム、車椅子対応部、身障者トイレ、そして両車端部に各一つのトイレが配置されている。

○605.2(2等中間車)
 40座席の開放室(喫煙)とボードキッチン(ギャレー)に立ち席テーブル/カウンターで構成された「ビストロ」となっていて、ギャレーから各座席に飲食物のシートサービスができる。その隣に乗務員室と2つのトイレを挟んで2つ目の出入口ドアが配置されている。

○605.5(1等先頭車)
 ここのラウンジ部にある6つの禁煙座席と5座席の喫煙座席を含めた開放室は総べて本革張りの合計35座席で構成されている。2ケ所の大テーブル付きの向かい合い座席グループは、肩程の高さのある仕切りで区切られており、保護された空間の雰囲気を演出したビジネス個室と位置付けられている。1等車の一方行向き座席はビデオモニターが付いている。

605.0 2等車 (禁煙) ラウンジ 8席 / 開放室 55席
605.1 2等車 (禁煙) 開放室 45席 / ファミリー個室 6席 / 車椅子対応座席 1席
605.2 2等車 (喫煙) 開放室 40席
605.5 1等車 (禁煙/喫煙) ラウンジ 6席(禁煙) / 開放室 22席(禁煙)+ 5席(喫煙) / 個室 8席(禁煙)

 運転席後部、ラウンジ部の長距離乗客は新しい体験ができる。それは以前はレールバスで、その後はVT628で可能であった運転手の肩ごしから前方を眺めらることである。新世代ICE(ICE3、ICE-T、ICE-TD)は、これを新しい要素を加えて可能にし、ダイナミックな視界を快適な座席から提供することが可能となった。
 インテリアは基本的に自然の素材を利用している。広い面積の本目化粧板に1等車の黒い本革や、2等車の青いシート生地と絨毯、そしてクローム処理された留金が付いた曇りがラスの荷物棚のコンビネーションによるデザインは普遍的で堅実な環境を提供している。
 室内騒音レベルは高効果遮音を通してエンジン最大回転200Km/h走行時で68dB(A)とディーゼル列車としての低騒音は特筆に値する。
 運転室、運転台は電車方式のICE-Tと同構造である。ここで特筆すべき点は電車方式のICE-TとICE-TDが併結協調運転を行う場合に備えて、「パンタグラフの上げ/下げ」と「メインスイッチの入/切」がこのディーゼル列車にも設備されていることである。


●性能試験

 1999年から始まった試運転の計画は、姉妹プロジェクトのICE3やICE-Tでの経験から順調に推移している。1999年4月には605.001が、2番目の列車はその直後にWildenrathの試運転線で自力で最初の1周を廻ることに成功した。
 DB AGは内部で新たに4桁の番号を長距離電車、気動車列車に付けている。最初の2桁が"55"はVT605である。(つまり5501編成の場合、605.001/101/201/501となる)
 8月18日には、5503編成がHamm - Bielefeld線上のRheda - Oelde間で初めて200Km/hを記録した。更に2000年の初めには5502編成が試験計画の走行性能確認試験が始まり、1月13日にGoettingen - Hannover間の高速走行で222Km/hを記録、これはドイツでの気動車最高速度となった。その後は冬期計測試験をTrier - Merzig間及びRoth - Donauwoerth間で行う。また、UIC518で規定されている長距離走行試験の為に初めてMuenchen中央駅にも顔を出した。姉妹車輌でもあるICE-Tが営業運転しているStuttgart - Singen間やGeislinger Steige、またVT610のルートでもあるNuernbrg - Hofでも試験をしている。2000年2月11日には、当時通行止めとなっていたライン左岸線のEifelを通ってMinden迄回送した。数々の性能確認試験で成功を収めたVT605形は最後の騒音試験を2000年の復活祭にDonauwoerth - Augsburg間で行った。
 列車保安システム(ZUB262)の確認の為、5511編成が5月には初めてスイスに渡った。試験はZuerich近郊線で行い、無事成功し、5月12日の午後にはZuerichからBasel、Freiburg、Mannheim、Koeln経由でWildenrathの試験センターに戻った。
 DB AGの監督の基、2000年夏期の路線改良作業終了に合わせてNuernberg - Dresden間を試運転した。
 車輌性能試験と同時にDB乗務員の乗務教育を始めている。1999年から5月には初めて列車運転士と列車長の教育が開始された。1999年12月には、未完成の(自力走行できない)5509編成がHofに入線し、12月と翌年2月、3月にはHof工場の職員がVT605の検査訓練を行っている。2000年1月28日には5508編成が自力でHofに入線した。
 2001年には開業を前に、最終的な乗務員訓練が営業予定路線であるNuernberg - Dresden間とNuernberg - Muenchen - Lindau間でより実践的な運行を目的とし、DB AG従業員のみを対象に事前予約制で以下の試運転列車の試乗を認めている。

2月19日から22日と3月7日から10日:
-Zug 77981 (LICE-TD [2 x VT605])
Hof 5:03 - Marktredwitz 5:29/5:31 - Nuernberg 7:04

-Zug 77982
Nuernberg Hbf 7:34 - Bayreuth 8:35/8:37 - Hof 10:03/10:13 - Plauen 10:50/11:00 - Reichenbach 11:21/11:24 - Zwickau 11:43/11:45 - Chemnitz 12:30/12.32 - Freiberg 13:07/13:10 - Dresden Hbf 14:07

-Zug 77983
Dresden Hbf 14:20 - Freiberg 15:00/15:02 - Chemnitz 15:52/15:54 - Zwickau 16:36/16:40 - Reichenbach 17:00/17:03 - Plauen 17:24/17:28 - Hof 18:02/18:18 - Bayreuth 19:30/19:32 - Hersbruck 20:15

-Zug 77984
Hersbruck 20:30 - Bayreuth 21:27/21:29 - Hof 22:34

2月23日、26日から3月2日、3月5日、6日:
-Zug 77987
Nuernberg 6:54 - Treuchtlingen 7:45/7:48 - Donauwoerth 8:07/8:09 - Muenchen Hbf 9:13

-Zug 77988
Muenchen Hbf - Buchloe 10:17/10:24 - Memmingen 11:08/11:25 - Lindau 12:27

-Zug 77889
Lindau 13:30 - Memmingen 14:56/14:58 - Buchloe 15:43/15:44 - Muenchen Hbf 16:33

-Zug 77986
Muenchen Hbf 17:02 - Donauwoerth 18:01/18:06 - Treuchtlingen 18:26/18:28 - Nuernberg 19:21


●おわりに

 営業運転前の現在は製造側も運営側もこの列車が利用客の要求に答えることのできる列車であることを切に望んでいる。営業運転開始は2001年6月の夏ダイヤ改正からの予定である。(2001.3.15)

列車総全長 106.700 mm
先頭車全長 27.000 mm
中間車全長 25.000 mm
全幅 2.842 mm
全高 4.205 mm
床面高 1.250 mm
レール幅 1.435 mm
台車軸間距離  1.435 mm
最小通過半径 (1車両) 125m
最小通過半径 (列車編成) 150m
軸配置 2'Bo' + Bo'2' + 2'Bo' + Bo'2'
制動装置 KE形ディスクブレーキ
車重(積載時) 232t
車重(空車時) 216t
出力 1,700kW
最大牽引力 160kN
最高速度 200km/h
ディーゼル燃料タンク 4 x 1.000 l
浄水タンク 605.1: 320 l (WE1) / 160 l (WE2)
605.2: 320 l (WE1) / 500 l (Galley)
排水タンク 605.1: 750 l (WE1); 375 l (WE2)
605.2: 750 l (WE1); 375 l (Galley)
ウインドゥ・ウオッシャータンク 27 l
ディーゼルエンジン カミンズ社製 QSK 19-R形
数量 4機
動力性能 (1.800 U/min.) 560 kW(1台)
駆動伝達方式 交流/交流
車内ネットワーク用電圧/電流 100 V/110 Ah
スターター用電圧/電流 24 V/190 Ah
外部接続用電圧/周波数 1.000V/16,7 Hz 又は50Hz

Dieselelektrischer Schnelltriebzug VT605(ICE-TD) fuer die Deutsche Bahn AG
Eisenbahn-Revue 10/2000, MINIREX AG, Luzern
Lok-Report http://www.lok-report.de

(執筆) 井上 晃良 (aav18170@par.odn.ne.jp)
(編集) 許 寿行 (ny8h-ky@asahi-net.or.jp)

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